横浜地方裁判所 昭和42年(行ウ)17号 判決 1972年10月24日
原告
総評全国一般労働組合
神奈川地方本部
右代表者
三瀬勝司
外三名
右原告四名訴訟代理人
増本一彦
外五名
被告
神奈川県地方労働委員会
右代表者
福田四郎
右訴訟代理人
杉原尚五
参加人
油研工業株式会社
右代表者
結城貫之助
右訴訟代理人
馬塲東作
外二名
主文
被告が神労委昭和四一年(不)第八号不当労働行為申立事件について昭和四二年五月一二日なした命令を取消す。
原告らと被告との間の訴訟費用は被告の負担とし、参加によつて生じた訴訟費用は参加人の負担とする。
事実《省略》
理由
一、参加人会社が昭和四一年二月二八日有限会社東神設計所より派遣されていた原告三名に対し同人らが従前から従事していた設計図作製の仕事の打切りを通告し、原告三名の所属する原告組合がこれを不当労働行為なりとして被告に対し救済命令を申立てたところ、被告はこれを昭和四一年(不)第八号として審査、昭和四二年五月一二日、原告三名は有限会社東神設計所と参加人間の設計図製作請負契約の履行のため、右有限会社から出向し設計図の製作をなしていた者に過ぎず、原告三名と参加人との間には労働契約が存在しえないから解雇も又ありえないとの理由により右申立棄却の命令をし、この命令書は同月二〇日ごろ原告組合に交付されたことは当事者間に争いない。
二、よつて勘案するに、労組法第七条にいう「使用者」とは、被用者を使用してその労働力を処分する者、即ち、自らの権限に基づき労務を適宜に配置、按配して一定の目的を達せんとする者であるから、雇用契約上の雇用主の他にも、被用者の人事その他の労働条件等労働関係上の諸利益ほ対しこれと同様の支配力を現実かつ具体的に有する者をも含むと解すべきであつて、労働者が例えばいわゆる社外工として、形式的な労働契約面では子企業に所属するにとどまり、現実に労務を提供する相手の親企業との間には直接何らの契約関係がない場合であつても、親企業の被用者と一緒に親企業の工場で就労し、しかも親企業の決定する職場秩序ならびに親企業の直接的指揮監督下におかれ、子企業がこれらの点につき何らの支配力をも有しない場合には、親企業そのものが労組法上の使用者であつて、子企業は使用者でないといわざるをえない。ちなみに職業安定法は第五条第六項で「この法律で労働者供給とは、供給契約に基いて労働者を他人に使用させることをいう」として労働者供給なる言葉を定義し、第四四条、第四五条において労働者供給事業を原則として廃止しているが、同法施行規則第四条は更に右第五条を敷衍して「労働者を提供しこれを他人に使用させる者は、たとえその契約の形式が請負契約であつても、次の各号のすべてに該当する場合を除き、……労働者供給の事業を行う者とする。」としたうえ、除外条件として、第一号ないし第四号の四条件を列挙し、労働者を他人に使用させる者は右の四条件すべてを満たさぬ限り、職業安定法上は使用者たりえず、単に労働者供給者にすぎぬ、としているのであつて、同法が「各人に、その有する能力に適当な職業に就く機会を与えることによつて、……以つて職業の安定を図るとともに経済の興隆に寄与すること」を目的としていることを考え併せるとき、同法上労働者を他人に使用させる者は職業を提供する者ではなく、これを提供するのは使用者であると評価せざるを得ないところ、右除外事由第二号は「作業に従事する労働者を指揮、監督するものであること」を職業提供者の必須の要件としているのであり、従つて、労働者を提供し他人に使用せしめる子企業は、これを使用する親企業との間にたとえ形式上は請負契約を締結していても、その労働者を指揮監督しない限り職業の提供者即ち使用者には非ず、単なる労働者供給者と解せざるを得ず、かかる職業安定法並びに同法施行規則の趣旨は前段説示の如き解釈にあたり参酌べらるべきである。
三(一) しかるところ、<証拠>によれば、参加人会社は油圧器の製造販売を目的とする株式会社で同社藤沢工場(昭和三六年三月東京都より移転)設計部には、同社従業員約八〇名の他いわゆる外注会社数社の派遣する社外工一〇数名が、会社従業員と同じく午前八時四五分から午後五時四五分までの勤務時間中事実上拘束され、同社従業員と同一の設計室で同社の貸与する製図道具およびその提供する製図用紙を用い、同社職制の指揮監督下に同社従業員と同一の製図作業をなし、同社の作業上の会議には同社従業員とともに出席する等して稼働し、この間その所属外注会社より作業上および勤務日時等につき指示を受けていなかつたのであるが、他方、社外工は外注会社と参加人会社間の取決めに従い外注会社より派遣されて参加人会社において労務を提供するもので、その給与は外注会社より支払われるとの建前がとられていたため、参加人会社の就業規則が適用されず、同社から直接給与の支給を受けず、その所属外注会社に参加人会社より支払われる請負代金名の金員より外注会社を通してその支給を受け、参加人会社より有給休暇、退職金を与えられず、かつ参加人会社の催す忘年会、慰安旅行等の社内行事への参加は許されず、同社従業員の構成する共済組合の設ける医務室等の利用も許されていなかつた、ことが一応認められる。
(二) しかし乍ら右各証拠をより詳細に検討すると、
(1) 参加人会社に社外工を派遣する外注会社には、資本金一〇〇万円、従業員二、三〇名を擁し、他会社にも社外工を派遣する有限会社をはじめ、数名の社外工自身が社員である有限会社、数名の社外工のグループで事実上会社名を名乗るもの、社外工個人で同様会社名を名乗る者に至るまで、多様な形態が存在し、これらのいわゆる外注会社はその会社登記の有無に係りなく、短期間のうちに設立、解散、分裂等の離合集散を重ね、その構成員の変動、移動も極めて頻繁であり、殊に昭和三九年六月以降参加人会社はかかる外注会社の会社法人化を計りはしたが、その後も、右の如き離合集散の実態には何らの変化も生じなかつたこと、
(2) 参加人会社は従前いわゆる外注会社の約半数は法人格を有せぬ社外工のグループにすぎなかつたにも拘らず、その点については全く無関心で、極端な場合には単なる個人が会社名を語り社外工として稼働することさえ放任しており、その採用に際しては、外注会社に社外工を特定することなく派遣依頼したこともあるが、嘗て会社で稼働したことのある社外工個人に直接交渉することも稀でなく、加うるに技術水準の維持および企業秘密保持の観点から各社外工にその履歴書、住民票の提出を要求する等、各社外工個人の技能、信用に着眼し、いわゆる人物本位にその採用を決定しており、他面、派遣外注会社との間には明文の請負契約書も明確な口頭の契約をも締結していなかつたのであり、たしかに右昭和三九年六月以降会社は採用に際し、派遣外注会社の会社の会社履歴書および登記簿抄本の提出を要求するに至つたものの右の如き実態には何らの変化もないこと、
(3) 会社は各外注会社に対し、その各派遣社外工の仕事出来高若しくはその労働時間(時間あたりの支給高は各社外工個人の能力、経験に応じて各人毎に決定される)に応じて、いわゆる請負代金を各代表者に支払い、各外注会社ではこれより事務局経費、法人税、所得税、源泉徴収分、各種社会保険掛金等の必要経費徴収分を差引いた残額の大部分を各社外工の作業実績に比例して各自に分配していること、
(4) 参加人会社は社外工各自の勤務態度、技術程度が不良である場合、その所属外注会社に対し当該社外工の派遣中止方を要請し、その実現を得ているとともに、外注会社は独自に特定社外工に代え他の社外工を派遣できなかつたこと、
以上の事実が認められる。
(三) 更に、<証拠>を総合すれば、
(1) 原告四海、同鈴木、同佐藤はそれぞれ昭和三六年八月、同年九月、昭和三七年四月よりいずれも昭和四一年二月二八日までの間、参加人会社の社外工として稼働したが、そのうち有限会社東伸設計所が設立された昭和三九年六月二日迄の間、原告四海、同鈴木はその所属外注会社を「有限会社三立設計」、「同三立工業」、「同東伸設計」と順次所属換えしており、「有限会社三立設計」は従業員一四、五名を擁する有限会社であつたが、昭和三八年八月事実上解散したため、右原告二名がその名を語つていたものであり、「有限会社三立工業」は法人格を有せざる五、六名の社外工のグループで、右原告二名はその名を名義料を支払い借用していたものに過ぎず、更に「有限会社東伸設計」は右原告二名の構成するグループにすぎず、また原告佐藤も当初法人格を有し一四、五名の社員を擁する有限会社湘南工業所より派遣されていたが、その退社後もその名を語つて稼働していた者にすぎなかつたのであり、
(2) 原告ら三名は、昭和三九年六月二日、参加人会社が会社登記を有する外注会社の社外工とこれを有せざる外注会社の社外工との間における所得税源泉徴収に基因する給与格差の是正のため、全外注会社の法人化を計つたのに呼応し、他の会社登記を有せざる外注会社の社外工を糾合し、有限会社東伸設計所を、目的を機械等の設計、資本金を三七万円、代表取締役を原告佐藤の父佐藤信夫(昭和四〇年死亡後は同原告)、取締役を原告佐藤、山下和弘、監査役を原告四海と定めて設立し、同社より右原告三名を含む六名の社外工を参加人会社に派遣し(他に一名を株式会社住友ベークライトに派遣していた)、
(3) 前記(一)認定のごとく藤沢工場設計部において製図作業に従事せしめ、
(4) 参加人会社は、原告佐藤、同鈴木については、同社の定める設計図単価に基づく出来高計算により、原告四海については労働時間高計算により、それぞれの仕事量を金銭評価し、これらを合計していわゆる請負代金を算出し、一括して右有限会社代表者原告佐藤に支払い、同社所属の社外工(原告三名を含め)は、これより各社員の所得税源泉徴収分、各種社会保険の掛金等を控除し、残額を全員の合算により、右各作業実績に比例して分配したこと、
(5) 原告三名が参加人会社より仕事の打切りの通告を受けた当時、同有限会社の所属社外工は原告三名のみに減少していたため、同社は同年四月二〇日解散に追込まれたこと、
以上の事実が認められる。
四右三(三)認定の事実関係に三(一)(二)認定の事実関係を総合勘案すると、参加人会社は原告三名を自己の決定する職場秩序に組み入れ、その作業を直接、具体的かつ現実的に指揮監督し、以つてその作業過程を支配しているのみならず、原告三名各自の参加人会社の労働過程への編入、排除等につき雇用契約上の雇主に準ずる支配力を有し、更に右の各原告が有限会社東伸設計所より支払を受ける賃金額をも間接的に決定しているところ、他方、同有限会社は原告各自の作業につき全く支配力を有せぬのみならず、参加人会社の労働過程への編入、排除につき独自の支配力を維持しているとは解し難く、加うるに原告三名の各賃金額につき同社がなす決定は名目的なものに留まるというべきである。
抑々、参加人会社は社外工を、景気の変動に対応し調整可能な労働力として採用している(この事実は<証拠>により認める)ものの、従前現実の個別的採用にあたつては、当該社外工の所属する外注会社の法人格の有無さえ確認していなかつたのであり、かかる状態の下では法人格のない外注会社の派遣する社外工と参加人会社との間には、法的には直接雇用契約が締結されていた、と解する他ないところ、たしかに参加人会社が昭和三九年四月ごろからかかる外注会社の法人格化を計つたのに対応し、原告三名は他の法人格なき外注会社の社外工を糾合し有限会社東神設計所を設立したものの、これは、「法人格を備えた外注会社から請負契約に基づき派遣された社外工」との体裁を整え、給与格差を是正する目的のためにのみ設立されたものという他なく、前段記載の参加人会社と社外工との間の労働関係の実態には全く変化がなかつたのである。
してみれば、参加人会社は、原告三名の労働関係上の諸利益に対し雇用契約上の雇用主と同様の支配力を直接、現実かつ具体的に有しているから労組法上は両者の間に直接雇用に準ずる雇用関係が実質的に成立しているというべく、従つて参加人会社は、原告三名との関係においては、労組法第七条にいう「使用者」であると解せざるを得ない。
五、以上のとおりであるから、参加人会社と原告三名との間には不当労働行為が成立しうる筋合であり、その成否の判断をなすことなく右使用者の点につき消極に解した被告委員会の命令は違法であり、その取消を求める原告らの本訴請求は理由がある。
よつて、これを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九四条を適用して、主文のとおり判決する。
(立岡安正 新田圭一 島田乗統)